新緑の枯樹 4-3


「リディアさんに原因なんて絶対ない」
 ゼインはそう言い切った。好きなんだか信者だか知らないが、リディアの話しになると俺に対して妙につっけんどんになる。そしてまた不機嫌な表情で、俺と顔を突き合わせた。
「フォースがフッた女性が騎士に復讐を頼んだんじゃないか?」
 俺は呆気にとられてゼインを見返した。そんなことが本当にあったら面白い。
「一番もっともらしい理由だがな」
 グラントさんの言葉に、思わずため息が出た。真面目な顔でそんな話しをされたら、身体の力が一気に抜けてしまう。いきなりバックスが忍び笑いを始めた。
「フォースに限ってはありませんね。騎士に成り立ての頃、フォースをとある店に誘ったら、自分が脱ぐのは嫌だと断ったくらいですから」
 サーディがブッと吹き出した。ゼインもケラケラ笑い出す。
「てめ、いい加減忘れろ! その時はまだ十四だぞ!」
 もう三年も前の話しだ。しかも何でこんな時にそんな話しを持ち出してくるんだか。
「へぇ、じゃあ、もう十七になったフォース君は誘ったら行くんだな?」
 バックスのニヤニヤした顔に、俺は冷たい視線を向けた。
「馬鹿言え、もうじゃなくてまだ十七だ。それにそんな暇があったら他にやらなきゃならないことがたくさん」
「じゃ、俺が替わりに、行」
 俺の話を遮ったサーディの言葉に、みんなの視線が一気に集まり、サーディは驚いたように言葉を切った。まわりの目を見回してからおそるおそる話を続ける。
「行こうかな、なんて……」
 バックスが慌ててサーディの前にひざまずく。
「絶対いけません、あなたがそんなところへ行くと後腐れどころの問題じゃなくなってしまいます。そのまま妃にしなくてはならなくなったらどうするんですか」
 サーディは、まわりがこれほど驚くとは思わなかったのか、うろたえてごまかし笑いをしている。
「そんなに本気で止めてくれなくても。冗談なんだから」
 バックスは安心したように、大きな息をついて胸をなで下ろした。グラントさんは控えめな笑顔をサーディに向ける。
「あなたがおっしゃると冗談になりませんよ。そろそろ皇太子妃になられるお方を捜していただかなくてはならない年齢になりますものを」
 サーディは、きまり悪そうに肩をすくめた。
「そろそろじゃなくて、今度の式典で候補を集めるらしいんだ。気に入った娘がいたら話しを進めてみるとか言ってたよ。こういうやり方は品物を選ぶみたいで嫌なんだけど、簡単に承知する娘がいるとも思えないからやってみるさ」
「断られるからやってみるんですか」
 そう言ってゼインは苦笑した。
 前にサーディが、恋愛なんてさせてもらえないと言っていたことを思い出す。結婚も仕事のうちだと半分あきらめているらしい。それを思えば俺にはとても笑える話題ではなかったが、バックスは口元をゆるませた。
「探してくれるっていうんだから楽でいいじゃないですか。俺は自力で見つけなきゃならないのに」

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