新緑の枯樹 4-4
楽だからいいというわけではない。バックスの言葉が妙に気に障り、イヤミを言いたくなってくる。
「遊んでばかりで探してもいないくせに何言ってる」
「どうせ探すまでもなく寄ってくるほどモテる奴にはわからないだろうよ」
言われたほどモテるわけでもなんでもないが、バックスの言葉に、どこか何かが引っかかった。バックスは俺に構わず話を続ける。
「それにしても、用意された娘が相手だと、迂闊にキスもできませんね」
俺はキスと聞いてハッとした。そうだ、あの木の場所で消えた人間はもう一人いた。騒ぎですっかり忘れてしまっていたのだ。俺はその人にキスをされた後、リディアを放っておきたくなくて、追うことも探すこともしなかった。今思えば、あの状況で隠れるところは太い木の幹の陰くらいしかなかったのだが、金色の短剣や俺の短剣を探した時にはすでにいなかった。どさくさに紛れて、あの場を離れたのだろうか。果たしてそんなことが可能だったろうか。
「フォース?」
バックスが腰を曲げて俺の顔を覗き込んだ。
「何か思い当たったのか?」
俺はバックスに返事もせず、サーディの前まで行った。
「サーディ、あの時、女の人見なかったか?」
サーディはキョトンとして俺を見上げる。
「女の人? 襲われた時のことか? いや、お前ら二人だけしか見ていないけど」
「奴らが現れる前も?」
「ああ。だけど、上からだと木の陰になる部分が大きいから絶対とは言い切れないよ。騒ぎになってからはそっちに気を取られて、あの場所から出て行く人がいても気付かなかったのかもしれないし」
サーディの言うことはもっともだった。これ以上聞いても意味はなさそうだ。
「そうか……。そうだな」
結局、疑問はそのまま残った。解決を期待していなかったはずが、何も解明されないことに少しの焦りと失望を感じる。
ゼインが気味の悪い薄笑いを浮かべた。
「女の人だぁ? ほら、そいつが犯人だ」
それを聞いたバックスは、ケタケタとおかしな笑い声を立てた。
今こいつらにキスの話しなんかしたら、ますます変な方向に話しが行ってしまうだろう。こっちが真剣な時に、ふざけている奴らを相手にするのも面倒だ。俺は彼らの騒ぎを放っておいて、グラントさんの前に立った。
「行方不明者の調査をさせていただきたいのですが」
俺の顔を見て、グラントさんは口元に笑みを浮かべた。
「やってくれてかまわないよ。君なら今までの視点と違ったところから調べてくれそうだ」
「ありがとうございます」
調査を許されて、なんだか少しホッとした。忙しければ余計なことをいろいろ考えずに済むだろうし、もしかしたら何か手がかりが掴めるかもしれない。今はどんな小さなことでもいいから奴らのことを知っておきたい。それは間違いなく、今度があった時のためにもなるのだから。