新緑の枯樹 6-1
「女神付きの騎士の部屋だって?」
ゼインが素っ頓狂な声を出す。神殿警備室に響いた声に、俺は顔をしかめた。
「なにをそんなに驚いてるんだ?」
「女神の部屋にリディアさんを寝泊まりさせるんだろ?」
前衛の部屋を通らないと行けない部屋でリディアが生活をするのは、護衛に最善の態勢を取るためだ。ある物を利用しない手はない。
「だからなんだってんだ」
「確かに前衛の部屋だから奥が見えないようにはなってるけど、女神の部屋との間にはドアもないってのに」
え? ってことは、なにも隔たりがないってことか?
「だから女神付きの騎士は妻帯者じゃなきゃいけないって規則があるのに、なんでフォースが」
「でも、リディアは女神の降臨を受けているわけじゃないから、そんな規則は関係ないだろ?」
ゼインはものすごく不機嫌な顔で、俺を指さした。
「なおさら危険じゃないか」
そうか。降臨を受けていないってことは、女神が去ってしまうとか、戦が厳しくなるとか考えなくてもいいってわけだ。
「……、そうだな」
俺が返事をするなり、ゼインは俺の頭を思い切りひっぱたいた。
「なにすんだ!」
「そうだなってなんだよ!」
「ちょっと客観的に考えてみただけじゃないか!」
身体の力が一気に抜けたように、ゼインは肩を落としてため息をついた。
「紛らわしいことを言うなよ。リディアさんに手を出したら承知しないからな」
「馬鹿言え、俺は護衛なんだぞ? そんなことできるか。ゼインだってリディアになにかしたら逮捕だ、逮捕」
実際、護衛を頼まれた時、リディアに手を出すなとシェダ様に言われた気がした。護衛に乗り気になれなかったのは、そのせいもあるのかもしれない。まったく、俺は何を考えていたんだろう。
ノックの音がした。俺は膨れっ面のゼインを放っておいてサッサとドアを開けた。そこにはグラントさんとリディアがいた。一瞬視線があったが、リディアは目を伏せてしまった。イヤな予感が胸をよぎる。
「ちょっとお邪魔するよ」
グラントさんはリディアをエスコートして部屋に入り、ドアを閉めた。
「何かあったんですか?」
俺は話しを急いだ。グラントさんはゆっくりうなずく。
「侵入者が消えたよ」
「消えた?」
俺は思わず不躾に聞き返した。グラントさんは訝しげに俺を見る。
「予想していたのではなかったのかね? イアンの事件の当事者である君が、そんなに驚くとは思わなかったよ」
グラントさんは、隣でうつむいているリディアにチラッとだけ視線を向けた。
「侵入者がイアンらと何らかの関わりがある可能性が高くなったわけだ。君はリディアさんの護衛を第一に考えてくれ。行方不明者の調査は、できる範囲でかまわない」