新緑の枯樹 6-2
俺は不審な思いを払いきれないまま、ハイと返事だけをした。グラントさんはそんな俺を訝るように見ている。
「なにか疑問があるのかね?」
「イアンらには表情もなく、感情の欠片も感じることができませんでしたが、侵入者は人間そのものでした。ですから一括りに犯人グループとして見ることができないんです」
俺はイアンの不自然さを思い起こしながら言った。グラントさんは苦笑を浮かべる。
「まるでイアンが人間じゃないようないい方だな。同じように消えても、侵入者は別だと思うのかね?」
「消えた状況がいくらかでも同じならば、仲間、と言うより操り人形と元締めという気がしないわけではありませんが」
グラントさんは、手にしていた書類から二つを取って俺に渡した。
「報告書だ、読んでおくといい。まあ、どんな可能性も考えておかなければならないことは確かだ。もう一つは君の隊の勤務予定だ。リディアさんの護衛の補助に、私の隊からブラッドを当てようと思う。好きに使ってくれ。夜は神殿警備の者を部屋の前に付けるようにする」
「ありがとうございます。助かります」
俺はグラントさんに頭を下げた。個人的に護衛を頼まれたといっても、その個人が神官長のシェダ様なだけに、さすがに待遇が違う。グラントさんはうなずいて、席に戻っているゼインの元へ行った。リディアは緊張が少し緩んだのか、ため息をついた。目が合うと控えめに笑う。
「疲れた?」
俺の問いに、リディアは首を横に振った。
「私は平気。それよりフォースのほうが」
「俺は全然。仕事が増えてラッキーだよ」
リディアはヒョコッと頭を下げる。
「ごめんなさい。他にもお仕事があるのに」
「そんなこと気にしなくていい」
俺はリディアに笑って見せた。リディアは俺の視線を避けるように目をそらす。
「それに……、護衛でいつも一緒にいたら、あの人に悪いわ」
「あの人? って、ああ、あれ」
思い当たるのは一人しかいない。やはりキスを見られていたのだ。リディアは不満そうに眉を寄せ、俺を見上げた。
「あれって、そんな言い方」
「知らない人なんだ」
リディアの目が、驚いたように大きくなる。
「え? だって、キ……」
リディアは上目遣いで俺を見たまま、慌てて自分で口を押さえた。
「いや、そうなんだけど、知らない人なんだ。ボケッとしてたらいきなり……」
どう説明していいか分からず、俺は口をつぐんだ。今度は目をそらさず、リディアはジッと俺を見ている。
「……ホントに?」
俺はリディアにうなずいて見せた。横からゼインが顔を出す。
「読んだのか?」
「いや、まだ」
リディアが信じてくれたか聞きたかった。信じてくれたからといって、状況が変わるわけではないけれど。書類に目を通さなくてはならないのは分かっているが、邪魔をしたゼインを鬱陶しく思う。