新緑の枯樹 6-3


「サッサと読めよ。護衛をする人間がそんなにボーっとしてちゃ、マズイだろ」
「この警備室はボーっとできないほど危険な所なのか?」
 俺は腹立ち紛れにつっけんどんないい方をした。
「かわいくないなぁ」
「別に、かわいがってくれなくていい」
 俺は書類に目を落とした。ゼインは俺にブツブツ文句を言いながら、近くの椅子を引く。
「リディアさん、どうぞ。座って待っていてください」
 リディアは俺と視線を合わせ、俺がうなずくのを確認してからゼインに笑顔を向けた。
「ありがとうございます」
 リディアはその椅子に浅く腰掛けた。ゼインはグラントさんの所に戻っていく。
 俺は報告書に視線を戻した。これを書いたのは俺が侵入者を引き渡したウィンで、同行していたのはセンガ、どちらもゼインの隊、神殿警備の者だ。
 留置所へ連行中に、その手前で消えてしまったとある。姿がボヤケてきて、不敵な笑みを浮かべながら消えたらしい。
 やはりどこか異質な感じがする。それに、消えるなら俺に確保されていた時の方が、よほど利点は多かったのではないだろうか。消えるにしても、敵は少ない方がいいだろうし、もし再度現れるつもりなら、顔は知られていない方が動きやすい。
「ゼイン、ウィンとセンガに会わせてもらえないか?」
 俺はゼインに報告書を渡しながら声をかけた。ゼインはそれを受け取って答える。
「会う? 取り調べたいのか?」
「いや、ただ話を聞きたいだけだ」
 ゼインは苦笑した。
「どう違うんだかな。仕事中なら面倒だけど、ウィンなら今日が休みだ。フォースが帰城すると聞いた時、いろいろ質問攻めにあったから、フォースが呼んでいると伝えれば、すぐにでも来ると思うぞ」
 また俺が騎士になったのは親の七光りだとでも思っている奴なんだろうか。どっちにしても、俺のことをゼインに聞いたところで、たいした話を聞けちゃいないだろう。
「じゃあ、これから人事考課の資料室に行くからそっちに頼むよ」
「気を付けた方がいいぞ、ウィンは腕が立つからな」
 脅すつもりで言ったのだろうか、ゼインはニヤッと笑った。だが俺は単純に嬉しかった。このところ移動と事務的なことばかりで、剣を合わせたのはイアンくらいだ。腕がいいなら絶好の練習相手になる。
「ホントか? そりゃ、楽しみだ」
「喜んでやがる」
 呆れたようにゼインは手のひらを上に向けた。俺はリディアの所に戻った。
「行こう」
 俺が差しだした手を取って、リディアは立ち上がった。グラントさんに向き直って敬礼をする。
「失礼します」
 グラントさんの返礼と、ゼインの苦々しげな顔を見て、俺はリディアと部屋を後にした。

7-1へ


6-2へ シリーズ目次 TOP