新緑の枯樹 7-2


「ご用の時は、ご自身に護衛を付けていらしてください」
 俺がサッサと先陣を切った言葉に、クエイドはフンと鼻を鳴らして部屋を出て行った。思わず大きなため息をつく。ブラッドは、俺とクエイドの対立を知っているのだろう、冷めた笑い声を立てた。
「ホントに護衛を付けてきたりしませんか?」
「今、城都にいる上位騎士は、グラントさんと俺だけだ。プライドの高い人だから大丈夫だろう」
 ブラッドは、なるほどとばかりにポンと手を打った。リディアは、まだ心配そうな表情のまま、俺を見上げている。
「でも、偉い人なんでしょう? あんな風に追っ払っちゃってもよかったの?」
「あれじゃ邪魔なだけだろ」
「そうだけど、あまり角の立つやり方はよくないわ」
 リディアはそう言って苦笑した。返す言葉が見つからない。確かにその通りだ。これ以上対立する種を、わざわざ増やす必要はないのだ。
「ゴメン、不愉快な思いさせちゃって」
 ブラッドは俺が謝ったことにだろう、意外そうな顔をし、リディアはクスッと笑い声を立てた。
「ううん、スッキリした」
 その笑顔に、安心したというか、気が抜けたというか。追い出してしまうなら、角が立とうが立たなかろうが、同じような気はする。
「フォースさん、護衛のお手伝いなのですが、何をしましょうか」
 ブラッドは、穏やかな笑みが残る、少し緊張した顔で言った。リディアと俺とのやりとりを聞いて、なごんでいたのだろう。ちょっと癪に障る。
「俺の後方の見張りを頼むよ」
「分かりました」
 ブラッドは、リディアの隣の椅子に背を向けて立った。俺はその椅子に座って、もう一度資料を手に取る。
「ここ一年半ほどで、騎士の行方不明者は古い順に中位騎士ラルヴァス、新人のノルトナ、上位シェラト、下位イアンの四人。内三人が城の敷地内で忽然と姿を消している。シェラトはどこでいなくなったか分かっていない。資料の上では四人に共通する要素はないな」
「あのぉ、ちょっといいですか?」
 ブラッドが後ろを向いたまま声をかけてくる。その時、ドアの向こうで微かに鎧の音がした。それは歩いて来るというふうではなく、立っているから聞こえる、上半身の大きめなプレートがぶつかって立てる音だった。多分ウィンだろう。俺は気を配りつつ放っておくことにして、ブラッドに先を促した。
「なんだ?」
「四人とも騎士だってことが、すでに共通する要素だと思うのですが」
「まぁな。……、ちぇっ、仕方ないなぁ。移動から出張から全部調べてくれ」
「えぇ? 私が調べるんですか?」
 頭の上から声がした。振り返るとそこにブラッドの顔がある。俺はうなずいて見せた。
「でも、いいんですか? 後ろの見張りはどうするんです?」
 俺は、俺と向かい合わせになった椅子を指し示した。
「いいも何も、そこからでも俺の後ろ側は視界に入るだろ」

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