新緑の枯樹 7-3


 やっと気付いたのか、あ、と声を出して、ブラッドは前に回って椅子に座った。
「そういうことは先に言ってくださいよ」
「さっき、俺とリディアのやりとりを聞いてなごんでたろ。腹が立ったんだ」
 少し不機嫌な口調で言うと、ブラッドはごまかすように乾いた笑い声を立てた。
「それに、こういう状況は観察されているみたいでイヤだったし」
 俺はドアを指さした。ブラッドは訝しげに首をひねる。俺は二人と顔を寄せた。
「あいつもだけど」
 俺はそうつぶやいてから、音を立てないように立ち上がった。そっとドアに近づき、勢いよく開ける。そこに立っていた兵士は、驚いたように目を見張り、それから堅い笑みを浮かべた。
「気付いていましたか、失礼しました。ウィンです。フォースさんが話しを聞きたいとのことでしたので」
 俺は部屋に入るようにと促した。ウィンは俺と視線を合わせたまま軽く頭を下げて入室すると、座ろうという気配も見せず、そのまま俺に向き直った。初っ端からやる気満々だ。このままじゃ、質問の答えが真っ直ぐ返ってくることはないだろう。俺は近くの椅子を引いて、その向かい側の椅子に腰掛けた。ここからだとリディアとブラッドも見える。
「まず、掛けないか? 突っ立ったままじゃ、落ち着いて話もできない」
 ウィンはチラッと椅子に目をやって、また俺に視線を戻した。
「失礼します」
 ウィンは椅子に腰掛けると、しっかり俺と向き合う。これは本当に話しどころじゃないかも知れない。
「侵入者の話を聞きたくて呼んだんだけど、あまり話す気はないみたいだな」
「最初から疑ってかかられると、こちらも素直に話す気にはなれませんよ」
 ウィンは微かに笑みを浮かべる。俺は苦笑した。
「俺が疑っている? あなたの何を?」
 消えたという報告を疑われていると思ったのか。これだけ神経過敏になるのは、本当に嘘だからかも知れないなどと、ふと思う。ウィンは一瞬目をそらしてから俺に冷笑を向けた。
「いや、疑っているのは私の方かもしれませんね。会っていきなり信頼はできませんでしょう。剣を合わせたことがあるとでもいうのならともかく」
「なにも信頼してくれとは言ってないよ。ただ、侵入者が消えた時の状況をあなたの口から聞きたかっただけだ」
「フォースさんは話を聞くだけでことは済むのでしょうが、私には疑われているようで苦痛です」
 ウィンは、やはり俺と腕比べをしたいらしい。まぁ、こっちも最初からそのつもりではあったのだが。
「話すのに信頼がいるって言うのなら、やる?」
 俺は剣を鞘の中で少しだけ動かし、カチャッと金属がぶつかる音を立てた。
「自分より弱い騎士なんて認められないってんだろ? 俺はこれが信頼につながるとは、あまり思えないんだけどね」

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