新緑の枯樹 7-4


 ウィンは意外だとでも思ったのか、眉を上げてホォッと口先を丸くする。
「いいんですか? こうも簡単に受けてくれるとは思っても見ませんでしたよ」
 ウィンはサッサと立ち上がった。何気に口元がゆるんでいる。よほど自信があるのだろう。望むところだ。
 俺とリディア、ブラッド、ウィンの四人は、人事考課の資料室を出て、すぐ側にある小さな中庭へのドアをくぐった。ここなら、あの木のある場所とは離れているし、動けるだけの空間もある。壁には練習用の剣も掛けられていて、自由に使えるようにもなっている。
「コレでやるんですか?」
 ウィンは練習用の剣にチラッと目をやった。だが、それを使う気はないように見える。
「いや、消えた奴らがいつ現れるかも分からない、自分の剣でいいだろう」
 俺はリディアとブラッドに、背中を城壁に預ける態勢で待つように伝えた。リディアは、俺が剣を合わせるのを今まで何度か見ているせいか、普段通り、あまり怖がっている様子もない。ただ、気を付けてと言って、少しだけ笑みを見せた。
 俺はウィンと対峙した。始まりの合図に、お互い軽い礼をしてから腰の剣を抜き、前に差しだして剣身を一度ぶつける。
「じゃ、遠慮なく」
 ウィンはそれだけ言うと、間を置かずに斬りかかってきた。その剣身を素直に受け流し、様子を見るために型通りの攻撃と防御を繰り返す。ウィンの攻撃は特に重いわけでもなく、早いわけでもない。ただ、人より少し器用な気がした。
 ふとウィンが冷笑を浮かべた。しっかり受けたつもりの剣が流れ、思わずアルトスの顔が頭に浮かぶ。そのまま剣を流しきって、俺は少し間を取った。アルトスと同じ剣技? まさか。だがひどく似ている。刃が流れる時の力がもっと強ければ、アルトスの攻撃と同じになるかも知れない。
 どっちにしても、ウィンも今まで様子を見ていただけらしい。面白い。どうして剣が流れるのかじっくり見て、ついでに練習もさせてもらおう。
「笑っていられなくなるぜ」
 俺の思いが顔に出たのか、ウィンは腹立たしげに顔をゆがめた。こんな時に笑うのは悪い癖だと思うが、それがウィンを挑発できたのならラッキーだ。
 その剣を受けるにつれ、剣身がどっちに流れても、自然に流しきることを体が覚えていく。俺が申し訳程度の攻撃をするだけで、受けに徹していたため、ウィンはだんだん疲れてきたようだ。こっちはその分、少しずつ見る余裕も出てくる。
 そしてついに見えた。インパクトの瞬間、剣にほんの少しひねりが入り、そっちに剣が流れる。もう一度。そうか、そういうことか。間違いない。ほんのわずかなズレが、予期せぬ方向へ流れる力になっていたのだ。

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