新緑の枯樹 7-5
理論が分かると、次にどう攻撃すべきかが見えてくる。とにかくやってみるに限る。俺は流れる剣をその方向に力を込めて振り払い、ウィンの体勢を崩した。そこにウィンの真似をして、ひねりを加えた一撃を浴びせる。ウィンは、受けたはずの剣身が流れてヒヤッとしたのか顔色が変わった。体勢が完全に崩れた剣の柄は、絶好の的になる。俺はそこを突き上げた。手を離れた剣は、ウィンの後ろに飛んで地面にザッと突き立った。アルトスの力で攻撃を受けたとしたら。それでも同じように剣身を振り払えるだろうか。
呆然として俺から目を離せずにいるウィンの横を通り抜け、俺は土に潜った剣先を引き抜いた。
ウィンの剣技は間違いなくアルトスのそれと同じだ。ライザナルからの移民だとか、逃亡兵だったとか、もしくは今現在諜報員だということも充分にあり得る。とにかくウィンには、どこかに必ずアルトスとの接点があるはずだ。今暴いてしまうよりも、やはりウィンの行動や交際範囲を観察するのが得策だと思う。俺は、こちらが警戒していることを悟られないように、ウィンに剣を手渡した。
「ありがとう。面白かったよ」
「面白かった? いや、そんなことより、どうしてフォースさんがこの攻撃を知ってるんです?」
ウィンは訝しげに俺を見ながら、手にした剣をクイッとひねって見せた。そう、アルトスの剣技だからこそ、ウィンは不思議に思うのだろう。
「今、あなたに習ったじゃないか」
驚いたようにウィンは目を見開き、あきれ返ったか、何かをあきらめたかのように首を横に振った。俺はウィンが剣を鞘に納めるのを見てから、剣を腰に戻した。
「調べたいこともあるし、資料室に戻ろう。話を聞かせてもらえるよね?」
「ええ、お話ししましょう」
ウィンはそう言うと、サッサと城の中へとドアをくぐっていった。
俺がリディアのところまで行くと、リディアはいつものように笑顔を向けてくる。こんな風に剣を合わせた時もだ。信頼してくれているから変わらずにいてくれるのか、どうでもいいことだから変わらないのか。
いったい俺は、なんでまたこんな時に、余計なことを考えているんだろう。わざわざ落ち込んでいることに自分で呆れる。
ウィンは敵かもしれない、気を許してはいけない。暗に気を引き締めつつ、俺はリディア、ブラッドと一緒に、資料室へと向かった。
ウィンはもう部屋に入って待っていた。ウィンには椅子に座るように促し、ブラッドには調べ物の続きをするよう、リディアには必ず見える場所にいるよう指示をした。リディアがブラッドの向かい側に座って手伝い始めたのを見て、俺はウィンと向き合った。
「報告書は読ませてもらったよ」
「では、他に話すことなど特にありませんが」
だからてめぇの口から聞きたいんだって言っただろうと、心の中で悪態をつく。
「消えた、のあたりを、詳しく聞きたいんだ」
「はぁ」
結局最初と何も変わっていない。話す気はないらしい。だとしたら、聞き出せるだけ聞き出すまでだ。どこかでしっぽを見せるかも知れない。