新緑の枯樹 7-6


「姿がぼやけてきた時は、まだ連行している最中だったんだろう? 消える時、押さえた腕はどんな感じだった?」
「身体が透け始めて、驚いて手を放してしまいましたので、どんなと言われましても」
 ウィンは、慎重に言葉を選ぶようにしてボソボソと声にする。
「じゃあ、透け始めた時は、まだ腕を掴んでいたってことだよね? なにか変化は?」
 ウィンは難しい顔をして考え込んだ。
「掴んでいたはずなんですが、正直、手の感触までは覚えていないんです」
 本当に正直だかどうだか。掴んだ腕が、ふと無くなったり、だんだん消えていったりすれば、気味の悪い体験として記憶に残らないはずはないと思う。
「その時、周りに人はいたか?」
「いいえ、いませんでした」
「他になにか気付いたことは?」
「いえ、何も……。すみません」
 このまま知らぬ存ぜぬで通されると、こっちの方が腹を立ててしっぽを出しそうだ。実際、ウィンはライザナルの人間ではないかという疑問の方が大きくて、消えたことに関する質問に支障が出ている。
「いや、実際目の前で消えられたら、俺だって冷静じゃいられないだろうからな」
 俺は大きくため息をついて、ウィンに笑顔を向けた。
「休暇なのに、わざわざ来てくれてありがとう。参考になったよ」
 違う面で、と思いながら、それはまだ言葉にはできない。俺は立ち上がってウィンに敬礼を向けた。ウィンも席を立って返礼したが、何か言いたそうにその場を離れないでいる。
「なにか?」
「不躾な質問かもしれませんが。帰城してまでリディアさんの護衛というのは、何か訳ありで?」
 ウィンは疑問をぶつけてきた。そういえば、ウィンが俺に興味を持っているとゼインが言っていた。
「たまたま帰城した時に護衛の仕事があった。それだけだよ、訳なんてない」
 ウィンはハァと、気の抜けたような返事をした。本当のところ、何を知りたいんだろう。
「今、神殿警備に就いているアジルなら、俺のことはよく知ってる。俺への好奇心なら、彼と話すだけでだいたいのことは解消されると思うよ」
 そう、アジルなら支障なく、上手く話してくれる。詮索されることを嫌う俺が紹介したとなれば、それ相応に疑問も持ってくれるだろう。
「もう一つ、いいですか?」
 俺はうなずいて、どんな質問を向けられるかとウィンの言葉を待った。
「行方不明者には、他にも共通点がありますよ。四人ともなかなかの二枚目なんです。あなたも気を付けないと」
 ウィンは、言葉に詰まった俺に笑顔で敬礼をして部屋を出て行った。ブラッドが机に向かったまま肩をすくめる。
「言われてみればそうですよね。みんなわりと整った顔立ちをしてる。リディアさん、どう思います?」
 ブラッドは身上書に付いている肖像をリディアに向けた。リディアは少し首をかしげてその肖像に見入っている。

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