新緑の枯樹 7-7


「そうかも。どの人もモテそうだわ」
 俺はリディアの言葉に関心がないふりをして、ウィンの履歴が載っているゼインの隊の資料を探しにかかった。
「だけど、そんなモノは彼らのつながりに、なりえないだろ? 顔がいいから仲良くしましょうってか?」
 俺の腹立ち紛れの言葉を聞いて、ブラッドはケラケラと笑い出した。
「で、もっといい男をやっつけようって思ったんでしょうかね」
 怒っているはずが思わず吹き出し、あまりのバカバカしさに可笑しさがこみ上げてくる。
「ふざけんな! ったく」
 半分笑いながらの俺の一喝にすいませんと謝り、ブラッドは笑いをこらえながら資料に目を落とした。
 俺は、リディアとブラッドに何を調べているのか分からないよう、少し離れた机に資料を置いてページをめくった。ウィンの履歴はすぐに出てきた。そこには生まれがアイーダで、十歳からは城都を離れていないという簡潔な記述があった。それが本当なら、あの剣技はアルトスのモノではないことになる。だが、そんなはずはない。あれは間違いなくアルトスの剣技だ。だとしたら、やはりこの履歴は作られたものということになる。
 リディアが立ち上がった。俺はサッサとゼインの隊の資料を棚に戻した。こちらに来ようとして、リディアは棚からはみ出した薄い資料にぶつかった。その側にあった何冊かの資料が床に落ちる。リディアはそれを拾おうとして屈み込み、なぜかそのまま資料に見入っている。
「どうした?」
 俺は近づいていって初めてリディアの身体が震えていることに気付いた。駆け寄って片膝を突き、リディアを覗き込む。血の気が引いた唇から、つぶやくように言葉が漏れてくる。
「フォース、これ、この人……」
 俺は、リディアの白い指が指し示した資料に目をやった。その肖像は、イアンと一緒にいた奴の顔をしていた。
「こいつ、あの時の! 名前と所属は?」
 俺はその資料を拾い、読みあげながら所属を探した。
「名前はミューア、ゴートに家があって」
 リディアが俺の腕を引っ張って、首を横に振った。長い髪が輝きを含んで揺れる。
「違うの、生年月日が……」
「えっ? 百年前だぁ? そんな馬鹿な……」
 言われて見たその欄には、今からピッタリ百年前の年数が書かれていた。思わず呆然としてリディアと見つめ合う。
「肖像ですよ? 鏡じゃないんですから。それに、そっくりな子孫がいるのかもしれないじゃないですか」
 ブラッドは資料を前にしたまま、頭だけ上げて言った。確かにそうかも知れない。あれが本人な訳がないのだ。他人のそら似でこれだけ似るのは珍しいだろうから、子孫というのは当たっているかも知れない。幸いゴートなら日帰りが可能だ。俺は心を決めた。
「ゴートに行こう。何か掴めるかもしれない」

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