新緑の枯樹 9-1
ゴートは思ったより静かだった。家と家が離れて建っているせいか、まるで別荘地のようなたたずまいだ。
いくつかの家を通り過ぎると、小さな店が見えてきた。あまり大きくない店だが、この町ならこれで充分足りるのだろう。店番でもしているのか、その前で編み物をしている人がいる。俺は馬を下りて手綱をブラッドに任せ、リディアと一緒にその人に近づいた。
「すみません、このあたりにミューアという騎士の家はありませんか?」
チラッとこっちを見ただけで、その人はまた手元に視線を戻して編み物を続ける。
「幽霊でも見に来たのかい?」
幽霊と聞いて、俺とリディアは顔を見合わせた。
「遊び半分で、あんなところに入っちゃいけないよ」
遊び半分? この鎧を見ても遊びに見えるほど、俺はガキに見られているんだろうか。
「いえ、仕事で調査に来たんです。知っていらっしゃるなら、家の場所を教えていただきたいのですが」
「仕事だって?」
編み物の手を止めて、その人は初めてじっくりこっちを見た。
「じゃあそれ、ホントにあんたの鎧なのかい?」
顔が引きつったかもしれないが、俺はなんとかハイと返事をした。その人は立ち上がって俺の目を覗き込んでくる。
「その目の色、もしかしてルーフィス殿の息子さんかい?」
目を覗き込みながら近づいてくる顔を避けたくて、俺は手のひらをその人に向けて後ろに下がった。
「そ、そうですけど、あの、あんまり側には」
「そんなに怖がらなくても、彼女の前でキスしたりしないよ」
そういうとその人は豪快な笑い声をたてた。なんてまた微妙なことを言うんだ、この人は。ふと見ると、リディアは一生懸命笑いをこらえている。悲しそうな顔をされるよりはいいが、この人に感謝なんて絶対しないからな。
「で、あの、幽霊ってミューア本人のですか?」
俺は、まだ笑っているその人に声をかけた。その人は仕方なさそうにため息をついて、真面目な顔つきになる。
「他に誰がいるんだい? 城のどこかで亡くなったんだろうね。ようやく骨まで朽ち果ててやっと家に戻ってきたんだろうって話しさ」
なんだか、もっともらしくて嫌な話しだ。でも、城内に骨が見つからないほど使われていない場所なんてなかったと思う。
「家には他に家族が? 配偶者とか、子供とか」
「たしか、ご両親が二人で帰りを待っていたとは聞いたよ。もっとも、とうに亡くなっているから今は廃屋だけどね。夜中に窓がボォっと明るくなったとか、足音やドアの音が聞こえたとかって噂だよ」