新緑の枯樹 9-2
明かりや物音は、単に人が隠れている可能性もある。いくら気味が悪いからといって、ここまで来て寄らずに帰るわけにもいかない。子供がいたかくらいは調べなければ。
「それで、家はどこに?」
「やっぱり行くのかい? この道の先、町のはずれさ。大きな邸宅だし、この道沿いじゃ廃屋は一件だけだからすぐに分かるよ」
「そうですか。ありがとうございます」
俺はていねいに挨拶をした。その人は俺の肩をポンポンと叩く。
「いいんだよ。気を付けてお行きよ。幽霊は剣じゃ切れないだろうからね」
気味が悪いが、真理かもしれない。俺はもう一度その人に軽く頭を下げた。不安げな顔のリディアを促してブラッドのところへ戻る。
「幽霊には見えなかったわ」
リディアはつぶやくように言った。
「昼でしたしね」
ブラッドも考えられないといった風に首を横に振った。
確かにあれが幽霊だとは思えない。剣も合わせたし、蹴り飛ばしもした。剣と鎧だけが本物だったとしても、首筋を剣の柄で殴った時にも手応えはあったのだ。
「あれは幽霊なんかじゃない。行こう」
俺は馬にまたがってリディアを後ろに乗せた。ブラッドも浮かない顔で馬に乗る。
「でも、その家にいるってのは、幽霊かもしれませんよね」
冗談じゃない。そんなモノ、真っ昼間からいてたまるか。
嫌な気分を抱いたまま、通りを進んだ。ひっそりと湿ったたたずまいの屋敷が見えてくる。それがミューアの家だと、すぐに分かった。雑草は茂っていたが、家自体は造りがいいのか、思っていたほど荒れているようには見えない。俺は騎乗したまま敷地内に入り、馬をつないでおけそうな立木の側まで行ってから馬を下りた。
「見せ物の幽霊屋敷よりは物々しくないですね。どこから入ります?」
ブラッドは手綱を木に縛り付けながら屋敷を見回している。
「別に、正面からでいいだろう」
俺はリディアを連れて玄関へ向かった。扉はカギも掛かっておらず、ギギギときしんだ音を立てながら、それでも思ったよりは簡単に開いた。重たい空気が身体を包み込んでくる。
そこは広いホールになっていた。真ん中から二階に向かって階段が伸び、その二階部分の壁が大きな窓になっているので、思ったよりも明るい。しかも床にはホコリを踏んだ足跡がたくさんついている。その足跡はホール中央に集まり、そこから八方に散っている。幽霊を見に来た奴らの残骸なのだろう。リディアが後ろから俺の袖を引いた。
「あそこに」