新緑の枯樹 9-3


 リディアが指をさしたそこには、騎士の鎧が飾ってある。そこへ行こうとすると、リディアはもう一度袖を引っ張った。
「動かないわよね?」
 その言葉に思わずゾッとする。
「不気味なこと言うなよ。こういうことは考える前にやっちまわないと」
 俺はサッサと鎧に近づいた。リディアは俺の袖を掴んだままついてくる。
「下位の鎧だ。今のとあまり変わらないな」
 俺はノックをするようにコンと胸のプレートを叩いた。乗っていたホコリがゆっくり落ちていく。リディアの後ろから、ブラッドが鎧を覗き込んだ。
「あの時の鎧は中位のでしたけど、体型もこんなもんでしたよね。それに、今思えば古かったような……」
「でも、ミューアが生きているはずはない。だったら他の誰かってことだろう。とりあえず子孫とか、親類縁者に関すること、なんでもいいから探そう」
 そういうモノが一番ありそうなのは書斎だ。だったら上の階から探した方が早く見つかるだろう。
「上から、だな」
「そうですね」
 同じことを考えたか、ブラッドはそう返事をして、早く行ってくださいとばかりに道を空けた。俺はブラッドの前を横切って、幅は広いが、踊り場がないためか傾斜がきつく見える階段を上りはじめた。上に行くにつれ、二階ホールの左右、直射日光を避けるためか窓の端から少しへこませた壁に肖像画が見えてくる。右はミューアだ。左は両親? リディアはミューアの肖像を見上げた。
「新しく肖像を見るたびに、本人だったような気がしてくるわ」
 賛同したくても、それを認めることほど気味が悪いことはない。俺は何も言えずにドアへ向かった。
 思考を意識的に麻痺させたまま開けたいくつか目のドアで、書斎らしき部屋にたどり着いた。中央に大きめの机が置かれ、その上にはペンやインク壺がのっている。その後ろ、二台の棚には本が整然と並べられていた。
 中に入って、俺は机の物色を始めた。リディアは本棚を眺め、ブラッドはドアの側にある小さめの棚を覗いている。一段目の引き出しをしめて二段目を開けた時、そこにアドレスの並んだ紙を見つけた。
「住所録だ」
 俺は机の上にそれを置いた。リディアはこちらを振り返り、ブラッドは棚にあった分厚い本を持ったまま頭を寄せてくる。最初のページはゴートばかりだ。次のページの中ほどに一行開け、その下に違う住所が並んでいる。しかし、そこからすべての名前には、丁寧に所属が書かれていた。どうも騎士や兵士の住所らしい。
「親戚らしいのは一つも無いな」

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