新緑の枯樹 9-8
分かっているんだろう。そんな風に言えるほど、簡単な理由なのか。いったいそんな理由がどこにある?
俺が何のために。何をしている、か? リディアの護衛のことだろうか? だとしたら、俺が何のためにリディアの護衛をしているかってことか?
そうか! もしかしたら、奴らはリディアにシャイアが降臨したと勘違いしたのかもしれない。上位騎士がいきなり前線から戻って見習いのソリストと接触したり、偶然にでも守るような形になったりしたら、そう思われても不思議はない。降臨した人間を殺してしまえば、また降臨があるまで時間を稼げる。ライザナルにとっては、一番最初に打てる手なのだ。
背中から何度目かのため息が聞こえた。振り返ると一瞬だけ視線が合ったが、リディアは目をそらすようにうつむいた。その表情は、瞳の色がいつもよりも深く潤んでいて、ひどく悲しげに見える。
「リディア?」
俺はリディアを覗き込むように見た。リディアは何度か唇を動かしかけてから、ようやく言葉を口にする。
「私のせいね……、あの人が死んだの」
その言葉にドキッとした。俺が罪悪感を持ったのと同じように、リディアは自分を責めていたのだ。リディアは俺のしたことに対して涙を流したのではなかった。
「なにバカ言ってる、俺が殺したんだ」
「フォースは私を助けてくれただけだわ。そうじゃなくて、何か訳があって狙われたのは私で、だから」
「それは違う」
リディアはうつむいたまま目を見開いて、そのまま驚いた顔をこちらに向けた。そう、リディアの罪悪感はたぶん見当違いだ。
「狙われたのはシャイアだ。リディアは降臨を受けたと勘違いされただけだよ」
「どうしてそんな……」
当惑したように、でもそうであって欲しいように、リディアは俺を見つめた。
「たぶん間違いない。帰ってウィンに聞けばハッキリするさ」
リディアは、小さくため息をついて目を閉じた。
「疲れた? 少し休もうか?」
「でも、早く帰って眠りたいの。なにも考えたくなくて……」
「それなら眠っていけばいい。前なら落とさないから。嫌か?」
リディアは、ほんの少しの笑顔を見せて首を横に振った。俺は馬を止めてリディアを抱き上げ、前に移動させて腕の中にそっと包み込んだ。リディアはゆっくり瞳を閉じ、俺に寄りかかるように身体を預けた。