大切な人 1-3
ケラケラと笑いだしたグレイに背を向けて、フォースは片手で顔の半分を覆ってため息をついた。
リディアは、後ろを振り返るきっかけを失って、水やりを続けていた。もし、きっかけがあったとしても、自分でも紅潮しているのが分かる顔で、振り向くことはできなかったと思う。フォースになら触れられるのが嬉しいとか、抱きしめられるのが好きだとか、そんな感情を悟られるのは恥ずかしいので、うまくフォローもできそうにない。
走り回っていたティオがリディアの横で足を止め、赤くなった顔を見上げた。リディアは思っていたことを暴露されるのを恐れ、思わずティオの口に人差し指を当てる。
「駄目よ、なんにも言っちゃ駄目。ね?」
慌てたリディアの様子に、ティオは訳が分からないままウンとうなずいた。
「言われちゃ困るようなこと考えてたんだ」
声に驚いて振り向くと、グレイが歩み寄りつつニコニコとリディアを見ていた。そのグレイがドンという音と共に前に体勢を崩す。
「悪趣味だ」
後ろからどついたフォースに、グレイは恨みがましい目を向けた。
「フォースだって気になるだろうが」
「リディアまで茶化すな」
フォースの呆れ返ったようでいて真剣な瞳に、グレイは両手の平を向けてごまかし笑いを浮かべる。
「分かったよ。フォースだけにしておく」
「てめぇ」
フォースに睨みつけられ、グレイはわざと視線を外した。
「あ、そうそう、リディア? 花、切ってあげようか。部屋に飾るといいよ」
いきなり言葉を向けられ、リディアは目を丸くしてグレイを見た。フォースはブツブツ言いながら、もうそっぽを向いている。
「いえ、いいです。切ってしまったら可哀想ですし」
「そう? じゃあ、フォースに買ってもらうってのは? すぐそこの小さな公園で園芸市やってたよ?」
そう言うと、グレイはフォースに笑顔を向けた。フォースはグレイに、ごまかしやがって、とつぶやいてからリディアと視線を合わせる。
「行ってこようか。息抜きにはちょうどいい」