大切な人 1-4


   ***

 グレイがティオに水やりを手伝えと説得している間に、フォースはリディアを連れてサッサと庭を出て公園に向かった。家10軒ほど先の小さな公園には、いくつかの花屋が入っているらしく、その広さの割りに園芸市の規模が大きい。鉢や苗から大きめな木、切り花まで豊富で、隅々まで植物で溢れていた。
 リディアはその大きめな木に駆け寄ると、葉に手を添えて愛おしそうに見入った。側に行ったフォースに笑顔を向ける。
「こんな大きな木まで売っているのね」
「持って帰れるのにしてくれな」
 フォースの苦笑に、リディアは笑顔のまま目を丸くした。
「え? 本当に買ってくれるの? ありがとう!」
「お礼が早すぎ」
 フォースが行こうと促した花に囲まれた通路に、リディアは足を踏み出した。フォースはその後に続く。
 色とりどりの花と甘い香りに溢れる細い通路を、リディアはゆっくりと進んだ。たまにまわりをキョロキョロと見回し、フォースに苦笑を向ける。花を見ているわけではないそのしぐさは、思わずいつもいるはずのティオを探してしまうからだろう。
 いくつかの店を回るうち、リディアの視界にファルビチス・ニルと書かれた小さな立て札が入ってきた。リディアは嬉しそうにかがみ込み、その苗を手に取る。フォースは双葉と数枚の本葉にツルがひょろっと出ただけの小さな苗を、リディア越しに見ていた。
「あれ? その格好は巫女様だね!」
 リディアの白く丈の長い神官服を見た店番の女性が、リディアに笑顔を向ける。
「それ、青い花が咲く品種なんだよ」
「青なんですか?」
 リディアは嬉しそうに笑みを浮かべて立ち上がり、フォースを振り返った。
「私、これが欲しい」
「え? それ? 地味だな」
 地味も何も苗なのだ。花などどこにも付いていない。リディアはクスクスと笑い声をたてた。
「でも、育てばちゃんと花が咲くのよ」
「そりゃ、そうかもしれないけど。遠慮してない?」
 納得がいかない様子のフォースに、リディアは笑顔で首を横に振って見せた。
「大きな花束でも贈りたかったのかい? そういうことは彼女に内緒でするモノだよ」
 店番の女性の言葉にフォースは苦笑し、その苗をのぞき込む。
「でもこれ、なんの苗?」
 リディアに尋ねたフォースに、店番の女性がアハハとおおらかな笑い声を立てた。
「分からないかい? 巫女様にはピッタリの花だよ」
 その言葉で、リディアはほんの少しだけ眉を寄せた。

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