大切な人 1-5
***
苗に合わせたプランターに植え替えてもらい、支柱も買って、フォースとリディアは神殿に戻った。その苗は、神殿裏口から入ってすぐ、応接室と食堂が一緒になったような部屋のテーブルの上に置いてある。
いつの間にかリディアのため息が増えていることに、フォースは気付いていた。不意に視線を落として何かを考え込む。そんな時に話しかけると、顔を上げて笑顔を取り繕う前のリディアは、少し寂しそうに見えた。
理由を聞けないまま夜になった。一日騒ぎ通しだったせいか、ティオは来客用のソファーで寝息を立てている。リディアは、支柱を立てないままのプランターの緑を、黙って見つめたままだ。フォースは警備の話をバックスという騎士に伝えるため、リディアを気にしながらオープンな階段を2階へと上がっていった。それまで部屋の隅で本を読んでいたグレイがリディアの側に立ち、苗をのぞき込む。
「フォースに買ってもらったって、朝顔だったんだ」
その声にリディアは視線を合わせた。グレイの笑顔が目に入ってくる。
「はい。青い花が咲くんですって」
「へぇ! 青い朝顔か。リディアにはピッタリだね」
「グレイさんもそう思うんですね。お店の人にもそう言われちゃって」
リディアは、悲しげに目を細めてうつむいた。グレイは笑顔のままリディアをのぞき込む。
「あれ? 別に悪い意味で言った訳じゃないよ? 普通ならシャイア様の巫女にはやっぱり青い花だと思うだろ」
「でも、支柱がないと立っていられないですよね。私も、そうだから……」
リディアは何もない空間に向かって伸びているツルにそっと触れた。グレイはリディアが落ち込んでいる理由に思い当たって苦笑する。
「支柱が必要なのはリディアだけじゃないよ。フォースだってそうさ。フォースにとってリディアは重要な支柱だよ」
グレイの言葉に、リディアは目を見張った。
「あれ? 信じられない? でも、必要とされているのは分かるだろ」
リディアは、瞳を閉じてフォースを思った。離したくないと言って抱きしめられた腕の力を思い出す。それは女神が降臨する前の、巫女ではない、自分がただの自分だった時の記憶だ。
「不安だったら聞いてみるといいよ。直接フォースにね」
「え? そんな……」
「できない? 最近は二人でなんでも話しているんだと思ってたんだけど」