大切な人 1-6
グレイの問いに、リディアは目を伏せた。確かに最近になってようやく、フォースに対しても思ったことをそのまま口に出せるようになってきたと思う。それでも、まださらけ出すには怖い部分が残っている。それは、心の一番奥底で、胸の鼓動と共にジクジクとうずいている。
「お互い様なんだから、頼ったっていいんじゃない? そうだ、花言葉知ってる?」
「朝顔の、ですか? いいえ」
首を振ったリディアに、グレイはニッコリ笑ってみせる。
「愛情の絆って言うんだ。グルグル巻き付いて離れない方がフォースも喜ぶと思うけどな」
「グレイさんっ?!」
上気した頬を隠したリディアに、グレイはイタズラな笑みを浮かべ、サッと支柱を手にした。
「フォースぅ。いやぁ、ピッタリだなこれ」
「グレイさんってば!」
支柱に向かってフォースの名を呼びながら逃げるグレイを追いかけて、リディアはようやく支柱を取り返す。
「なにやってんだ?」
ガチャッという鎧の音と共に、階段の上からフォースが顔を出した。
「のわっ! いたのか」
笑って誤魔化すグレイと、支柱を抱きしめて顔を真っ赤にしたリディアを、フォースは交互に見ながら階段を下りてくる。
「何? どうしたの? なんの話?」
「ううん、なんでもないの」
上気してうつむき加減のままのリディアにそれ以上何も聞けず、フォースはグレイを見やった。グレイはフォースと向き合い、両肩に手をかけてジッと目をのぞき込む。
「グレイ?」
訝しげに眉を寄せたフォースに、グレイはやっと口を開く。
「フォースにとって私って何?」
「……、はぁ?! な、なに言ってんだ?」
慌ててうろたえているフォースを、グレイがフッと鼻で笑った。
「って、リディアが聞きたいって」
「なっ? そういうことは一息で言えよっ。クソッ、頭ン中が真っ白になっちまったじゃねえか」
虚をつかれて茫然と見ていたリディアと、頭を抱えたフォースを放って、グレイは笑いながら廊下へ消えていった。部屋が妙にシンとする。こんな時に限って、ティオの寝息すら聞こえない。
「え、ええと、まず用事だけど」
沈黙に耐えられず、フォースはリディアに階段の上を指さして見せた。
「バックスが夜の警備の待機をしてたよ。そろそろ時間だからって」
「時間? そ、そうね、部屋に行かないと」
リディアはフォースの言葉を聞き、慌ててプランターに手を伸ばす。