大切な人 2-3
「大変なのは分かる。分かるけど客だ。なんとか適当に応対して帰してくれ」
真顔のグレイに、リディアはうなずいている。俺は顔をしかめた。言い方は丁寧だが、こんな時の神官の言葉は、ほとんど命令と同じだ。グレイは昔からの友人だが、逆らうわけにもいかない。
「でさ、わざわざ恋人だと主張するようなことは、間違っても言うなよ。フォースとリディアが恋人同士だってことは、マルフィさんがバラしているだろうけど」
「了解」
俺が半端な敬礼を返すと、グレイは涼しげな微笑みを見せた。
「後ろで見てるから」
その言葉に訝しげな表情を向けた俺に、グレイは、余計なことは言うな、と人差し指を突きつけて付け足し、トレイルの待つ部屋へと足を向けた俺たちの後からついてきた。
***
応接室兼食堂へ入ってすぐの場所にあるソファには、ティオという全身緑色の妖精が寝転がっていびきを立てていた。たいていは子供の姿なのだが、今は顔だけが少し元々の姿に近く、耳が異様に尖り、口が裂けていて牙がはみ出している。
トレイルは、ティオが怖かったのか食卓テーブルについていた。側にマルフィさんが立っている。そっちでいいのかと思いつつ側へ行くと、トレイルは立ち上がって振り返り、俺とリディアを迎えた。
「お会いできて光栄です」
そう言って礼儀正しく挨拶をしたが、こいつが何をしに来たかを考えると、やはり演劇のネタ探ししか思いつかない。俺は、こいつをどうやって帰そうかと思惑を巡らせながら、無言でしっかりと敬礼した。
会釈を返したリディアは、神殿に飾ってください、とマルフィさんに薔薇の花束を渡した。神殿にですか、と寂しげにつぶやいたトレイルに、じゃあ頑張ってね、と上機嫌な声をかけ、マルフィさんは元来た廊下へと戻っていく。
「どうぞお座りください」
リディアの声に苦笑を浮かべると、トレイルは椅子に腰掛けた。リディアはその向かい側に座り、俺は護衛の体勢をとってリディアの横に立つ。トレイルは俺の顔色をうかがうようにのぞき込んできた。
「あの。フォースさん? あなたにもお話を伺いたいんですが」
「どうぞ」
「いえ、そこにそうして立っていられると凄い威圧感が。とてもそういう雰囲気じゃあ」
そう言われると、このまま立っていたいと思う。だが、サッサと話を終わらせたいのもあり、俺はリディアの横の席に着いた。トレイルはホッとしたのか表情を緩ませ、リディアに顔を向ける。
「お二人は随分前からお知り合いだったとか」
「父親同士、付き合いがありますので」
「あなたたちも?」
「ええ。それなりに」
リディアは少し首をかしげながら微笑み、丁寧に返事をしていく。