大切な人 05-3


 バタバタ暴れるタオルを気にしながら、リディアはアリシアの後ろに隠れている。そこに、普段は子供の姿をした妖精のティオが、慌てた様子で駆け込んできた。
「フォース、なにすんだよぉ。せっかくここが気に入って住んでるのに」
「気に入ったって言われてもな」
 俺が呆れて向けた視線を、ティオはわけが分からずに見返してくる。
「リディアが怖がっているだろ? 間貸しは駄目だ」
 タオルごと差し出した俺の顔を読んでから、ティオは周りをくるっと見回し、リディアとアリシアに目をとめて、ため息をついた。
「そっか、一緒に住むの嫌なんだ。可愛いのに」
 ティオは、俺からヤモリ入りのタオルを受け取り、ヤモリを解放した。
「中は駄目だって。他に住むトコ探そう」
 ヤモリに向かって話しかけ、俺にタオルを手渡すと、ティオはそのヤモリと一緒に浴室を出て行った。
「あ、タオル、取り替えてくるわ」
 アリシアは、俺の手からタオルを摘むようにして引き取る。
「あ、サンキュー」
「いいえぇ」
 アリシアは、後ろ手に手を振って、浴室を出て行った。リディアは俺の側に来て、柔らかい微笑みで見上げてくる。
「ありがとう」
 そのフワッと温かい唇とキスを交わす。俺は、リディアの身体に腕を回し、マントの下に何も着ていないことを思い出した。
「しまった、順番間違えたかな」
 アリシアにタオルを取りに行ってもらうより先に、リディアをお湯につからせた方が良かっただろうと思う。俺のつぶやきに、リディアは不思議そうな顔で見上げてきた。
「寒くないか?」
 リディアは首を横に振る。
「全然平気。ティオが運んでくれた温泉のおかげかしら」
 リディアは肩をすくめて笑顔を見せると、何を思いだしたのか表情を曇らせる。
「ねぇ、こうして身体を隠すのにマントを貸してもらうのって二度目よね」
 その言葉を聞いて、リディアに話していなかった二度目にハタと思いつく。
「いや、三度目なんだ」
「え? あ、降臨の時……」
 そう、リディアが降臨を受けた時に、衝撃のせいなのか服が弾け飛んでしまい、裸同然で意識を失ってしまったリディアの身体を隠すのに使ったのだ。うなずいた俺を見て、リディアは眉を寄せた。
「ごめんなさい」
 リディアは、頭を下げるように、コツンとひたいを鎧に付ける。
「私、見せるにいいだけ見せてるくせに、何もしてあげられない」
 その言葉に吹き出しそうになって、俺はグッとこらえた。それがバレたのか、リディアは頬を膨らませて見上げてくる。
「笑い事じゃないんだから」
「笑ったわけじゃない。見せるにいいだけって。そんなにじっくり見てないよ」
「ホントに?」
 俺は、不安げに眉を寄せているリディアにうなずいて見せた。
「ああ。ただ、しっかり覚えているだけで」
「もうっ。それ、おんなじっ」
「え? ……じゃあ、じっくり見ておくんだったかな」
 リディアは目を丸くし、あっという間に顔を真っ赤にする。
「おんなじは撤回」
 リディアは、顔を隠すようにうつむく。俺は、分かった、と言葉にして、回していた腕に力を込めて抱きしめた。

05-4へ


前ページ midst目次 シリーズ目次 TOP