大切な人 08-2
リディアの言葉に、スティアはいかにも可笑しそうな笑い声を立てる。
「でも、それをすっかり信じちゃうなんて。リディアらしい」
「男ってそんなモノなのねって思ったわ。嘘つき。二度と信じないって」
「でもフォースのことは信じているじゃない」
スティアは、フフンと鼻を鳴らす。
いつもなら俺にそんな話を振られても訳が分からないし面倒なので、二人だけで話してくれた方がありがたい。でも今のセリフは、どうやってもリディアが男に騙された話に聞こえ、凄く気になる。
俺が部屋へ入ると、スティアは、あ、と口を隠し、そのまま笑いを堪えている。リディアはいつものように側に来て、俺を迎えてくれた。
「なんの話をしてたんだ?」
リディアに聞いた俺に、スティアがクスクスと笑い声をたてる。
「聞こえてたの? やっぱり気になるわよね。聞いたこと無い話でしょう」
「もう、スティアったら」
リディアは頬を膨らませてスティアを見遣り、それから上気した顔で俺をうかがうように見上げた。
「全然なんでもないの。ホントよ?」
いつもならなんでも包み隠さず話してくれるリディアが、言いたくないのか言葉を濁す。俺は不服な気持ちを押し込めて、そう、とだけ返事をした。リディアは不安げに俺を見上げている。
「何?」
俺が聞き返すと、リディアは慌てて首を横に振った。
「ううん。……でも、もしかして怒ってる?」
「は? そ、そんなこと無いよ。怒ってなんかいない」
そう言いながら、もしかして少しでも顔に出てしまっているのか、リディアにはそれが分かっているのか、と情けなくなる。でも、そこから先を問いただすことなどせず、リディアはいつもと変わらない明るい笑顔を向けてくれた。
「あ、そうだ、お客様なんだ。ローネイっていう」
「えっ? ローネイ?! あ……」
目を丸くして驚いたかと思うと、リディアの視線がスティアに向いた。スティアは顔の右半分でニヤッと笑う。
「リディア、浮気は駄目よ」