大切な人 08-3


   ***

 訳の分からないスティアの言葉に送り出され、俺はリディアをエスコートして講堂へ戻った。並んだ椅子の二列目に腰掛けていたローネイが、リディアを見つけて立ち上がる。
 リディアの足が止まり、俺は振り返ってリディアを見た。ちょうどローネイから死角になる場所で、一瞬困ったような顔を俺に向けると、リディアは俺の前に出る。
「お久しぶりです」
 丁寧にお辞儀をしてローネイを見つめる笑顔は、どこか不安げだ。リディアにとって、あまり会いたくない人間のように感じる。スティアは浮気は駄目とか言ったが、リディアがこのローネイという男と、浮気をするかもしれないと思ったのだろうか。
 ローネイはポカンと口を開けて、リディアの姿を下から上までじっと見つめていたが、目が合ったのか、ハッとしたように笑顔になる。
「リディア、とっても綺麗になったね。あれからも元気にしてた?」
 ローネイのため息混じりの言葉に、リディアはうつむき加減で、ええ、とうなずいた。
 ローネイは最前列の椅子を回り込み、リディアの前に立つ。俺は直視しないように明後日の方に視線を向け、視界の隅でローネイを監視した。さすがに気になるのだろう、ローネイはチラッと俺を見てから、リディアに視線を戻す。
「降臨なんて受けちゃって、いろいろと大変なんだろう? 引っ込み思案なのに、始終護衛がいたり、信者が来たりで」
「いいえ。フォースが居てくれると、とても安心できますし、信者さんは励ましてくださいます」
 リディアは軽く首を横に振ってそう答えると、視線をローネイに向けたままで一歩後退り、俺の腕をとった。ローネイは、そのリディアの手をチラチラ見て気にしている。
「あ、そうなんだ?」
 ローネイはリディアがうなずくのを見て、鏡の前で練習をはじめたばかりのような笑顔を浮かべた。
「ヴァレスはどう? 結構いい街だろう」
 ローネイが世間話で話を繋げるのを、俺は一瞬だけ直視した。本当は護衛をしている時に話し相手を直視するなど、失礼になるので厳禁だ。だが、リディアが嫌がっているのが分かるので、今回は居づらくするためにわざとそうした。もしかしたら、俺がいる前だから会いたくない相手なのかもしれないが。

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