大切な人 08-4
俺はサッサと視線を外したが、ローネイの頬が引きつるのが分かる。ええ、とだけ返事をしたリディアに、ローネイはまた無理に笑みを浮かべた。
「懐かしいなぁ。城都にいた時は楽しかったよね。告白してからは、よく一緒に遊んだっけ」
「あ、そうみたいですね。レイラちゃんに告白して、一緒に遊んでらしたんですよね」
告白ってリディアにか? と思ったら、リディアは俺の知らない名前を出した。ニッコリ笑ったリディアを、ローネイは目を丸くして唖然とした顔で見ている。俺は思わずその表情に見入ったが、今度は俺のことなど全然目に入っていないようだ。
「な、なぜそれ……、あ、いや、あれは」
その狼狽えぶりで、ローネイがリディアに告白した後で、隠れてレイラという娘にも告白したのだろうと想像がついた。
「楽しそうでしたよね。私もよかったです。だって……」
リディアは、掴んでいた俺の腕を抱くようにして寄り添ってくる。俺はすぐ側から見上げてくる笑顔に、微笑みを返した。
「そ、そうなんだ? それは、良かった、ね?」
「ええ。ホントに」
ハッキリとしたリディアの返事に、ローネイは何度目かの冷めた笑い声をたてた。
それにしても、ローネイがリディアに告白したなんてのは、いつの話なんだろう。よく一緒に遊んだという言葉も気になってくる。リディアは笑顔を崩さないまま、ローネイに視線を向けた。
「それで、今日はどんな用事でいらしたんですか?」
ローネイは、ウッ、と言葉に詰まっている。ローネイは、ただ単に会いに来たのだろうと思う。リディアの笑顔は変わらないが、言っていることは凄く冷たい。もしかしたら、よほどのことがあったのだろうか。
「い、いや、もういいんだ。元気そうな顔が見られただけで」
「そうですか。寄ってくださって、ありがとうございました。では、お元気で」
リディアがローネイに向けた挨拶が、俺の耳には、二度と会わない、と聞こえた。リディアを怒らせたら、結構怖いのかもしれないと思う。
リディアの丁寧なお辞儀に、ローネイはヒョコッと頭を下げると、神殿を出て行った。ローネイが見えなくなってから、戻ろうとしたのだろう、俺の腕を引いたリディアと目が合う。
「彼と、何かあったんだ?」
俺が思わずした質問に、リディアは目を丸くした。