大切な人 10-4


 スティアの答えに唖然とする。どうして砂糖を見ただけでヨダレを垂らせるのか。それでは邪魔にされてもしかたがないと思う。俺が顔をしかめると、リディアは眉を寄せ、ますます心配そうな顔になる。
「治まってきてる、大丈夫だよ」
 俺がそれだけ言うと、リディアはホッとしたように短く息をついた。
「心配だから、もう少しじっとしていてね」
 リディアの指が、髪を梳くように俺の頭をなでている。痛みが治まってくると、本気でこの状態をラッキーだったかなと思ってしまう。だけどリディアが落ちるなんてのは、もう考えたくもない。
「気をつけてなんて少しでも思うようなことは、全部まかせてくれないか? どんな些細なことでもいいから」
 リディアはコクンとうなずいた。その後ろでスティアが俺に向かって、ゴメンね、と小さく頭を下げる。
「そうそう。そうしてくれるとありがたいですよ。そういえば、何か取るんでしたか?」
 バックスは、ハタと思いだしたようにスティアに言葉を向けた。スティアはテーブルの横にある棚の上を指差す。
「城都から持ってきたお砂糖を置いたの」
「なんでまた、こんなところに」
 バックスは、置いてあった机に乗り、手を伸ばして袋を取った。
「他のモノと別にしておこうと思ったの。ありがとう」
 砂糖の袋を差し出され、スティアは満面の笑みを浮かべて受け取った。
「自分で置いたモノならリディアに頼まないで自分で取れよ」
 俺が憮然として言った言葉に、スティアはフフンと鼻で笑う。
「私にはフォースみたいなクッションとかベッドマットの代わりがいないんだもの、危ないじゃない」
 バックスはその言葉にワハハと朗笑しながら、机と椅子を元の位置に戻している。いや、降ってくるのがリディアだったら、俺はいつでも受け止めるつもりだけど。
「クッションでもベッドマットでもなんでもかまわないよ。リディアが必要なモノが寄り集まって形になったのが俺だったらいいんだけど」
 俺を見下ろしていたリディアの頬が、ほんのりと上気する。スティアはハァと大げさにため息をついた。
「頭を打っても、そういうところは変わんないのね」
 それってどういう意味だ。バックスは、いかにも笑いを堪えているんだという顔で、警備の位置に戻った。俺が顔をしかめて見せると、スティアは冷ややかな笑みを浮かべる。
「ま、一生クッションしてらっしゃい」
「クッションよりベッドマットの方が嬉しいんだけど」

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