大切な人 11-2


 そう返すと、フォースはウッと言葉を詰まらせて口をつぐんだ。バラのせいではなく、本気で顔が少し赤い。
「言いたくないんだ? へぇ。リディアちゃんに言っちゃおうかしら」
「ばっ、バカやろっ、絶対言うな!」
 フォースが真剣な顔で荒げた声に、私は思わず息を飲んだ。私が驚いている隙に、フォースはバラを抱えたまま階段を三段抜かしで駆け上がる。
「言うなよ!」
 階段の一番上から念を押すようにそう言うと、フォースは二階廊下の奥へと入って行く。部屋に入ったのだろう、その奥からドアの音が響いた。
 あの異常なまでの拒否は、どう考えても変だと思う。どんな関係なのか色々な状況を考えてみたい。でも、どうしてもその辺りを全部通り過ぎて、浮気、という言葉が浮かんでしまう。
 まさかホントに浮気しているわけじゃないよね? それが私が持つただの希望だったらと思うと寂しいけれど、自分がまったく知らない面をフォースが持っていても不思議ではない。どんどん本気で心配になってくる。
 二階からドアを開け閉めする音が、二度聞こえてきた。何があったのかと見ていると、階段をナシュアという、この神殿のシスターが降りてくる。思わず目で追った私に、ナシュアが視線を向けてきた。
「どうかなさったんですか?」
「いえ、あの」
 聞いていいのだろうかと思いつつ、それでも気になりだしたら止まらない。
「……、フォース、どうしてました?」
「私はリディアさんの所にいたので、ご一緒してはいなかったのですけれど。バックスさんと部屋を出た時に、水を入れた大きめな花器が欲しいとおっしゃっていました」
 軽くお辞儀をして去ろうとするナシュアを、私は思わず追いかけて引き留めた。
「それ、私が用意します」

   ***

 目にした花束にちょうどいいような花器を探した。両手に抱えるほどの本数だったのだから、大きくなくてはいけないだろう。ずいぶんかかってようやく良さそうな花器を見つけ、水を入れて二階に上がる。
 リディアちゃんのいる部屋の前には、がたいの大きなバックスという騎士が見張りを務めている。バックスとは騎士になった頃からの知り合いだと、フォースには聞いていた。
 確かに今までも何度か見かけた気はする。でも、バックスが神殿に来たことではじめて、お互いに会話を交わすようになっていた。
 そのバックスとお辞儀だけの挨拶をしてリディアちゃんの部屋を通り過ぎ、斜め向かいにあるフォースの部屋のドアを叩く。

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