この地球の美しさといったら! 05
だが反対に、シュウの降りたいという気持ちは高まっていた。無事に降り、地球の自浄作用に守られた環境で、彼女を自分の家族にしたいと思ったのだ。
シュウはカプセルが並ぶもう一列の方へと足を向けた。まっすぐ端のカプセルへと向かい、そのプレートを見下ろす。
――アダム、イブと共に――
想像していた言葉に奥歯を噛み締め、その顔へと目をやった。男だ。やはり色白で、生気の残る顔をしている。その顔をどこかで見たような記憶があるとシュウは思った。すぐに、乗員の残した美術の本だ、と思い付く。そこに載っていた宗教画と呼ばれていたらしい絵画に描かれていたような女々しい顔だ。
彼らは何らかの理由があり、後から追加で冷凍睡眠に入ったのかもしれない。新しいカプセル二台から伸びた、だらしなく床を這うコードがそれを示している。
そして、並びが違うために数字で家族だと表せないから、こんな文言を記したのだろう。それにしても、睡眠時の顔色が変わるほどの冷凍睡眠カプセルの改良が、短期間で行えるものだろうか。それも記録にはなかったはずだ。
今一度彼女のカプセルをのぞき見ると、シュウは冷凍睡眠室を後にした。
その足でシュウは船内の資料を集めてある部屋に来ていた。人間二人と冷凍睡眠のカプセルが増えた事について、どこかに載っていないかと、もう丸一日資料をめくり続けている。だが、大半を調べ終わった今でも、その記録を見つけることは出来ていない。
これだけ大きな出来事だ、もしかしたら記録に残さなくても口で伝わると考えたのかもしれないとシュウは思った。だとしたらアウトだ。最後に残っていた祖父さんからも父からも、何も聞かされてはいなかった。シュウが一人になった当時は、まだ5歳だったのだから。
だが、アダムとイブが登場する書物だけは発見した。神が作った最初の人間だなどと記されていた。そんな大仰な名を使って家族だと主張するなど、思い上がりも甚だしいと思う。
――イブ、アダムと共に――
――アダム、イブと共に――
蘇ってくる二枚のプレートにあった言葉に、シュウの嫉妬心が煮えたぎった。彼らは地上に降りて二人で暮らすという同じ夢を、今この時も見ているのだ。