この地球の美しさといったら! 06


 このままでは無事に地上に降りたとしても、あのアダムという奴がイブと一緒に暮らすことになってしまうに違いない。だがアダムだけを始末したとしても、一斉に起き出す人間らの中に、イブを狙う奴が現れるかもしれない。
 始末、などと思っている自分の思考にハッとした。身体が震えるぐらいの動悸が、シュウを揺り動かす。
 身体が震えている。そんなことをしていいわけがない。だが出来ることなら彼女と一緒に暮らしたい。その気持ちを振り払えず、シュウはなんとか落ち着こうと奥歯を噛み締めた。
 大きく息をつき、手元の古い資料から顔を上げると、円形の窓の外に美しい地球が見えた。太陽が100年の歳月をかけて浄化してくれた地球だ。とにかくあそこに帰るのだ。きっと地球もそれを望んでいる。
 すぐ側の天井に、後から設置された電灯のコードが垂れているのが目に入った。二つの新しいカプセルからも、だらしなくコードが伸びていたのを思い出す。
 あのコードを外せばアダムは死ぬだろう。軽く蹴飛ばすだけでそれは叶う。いや、蹴るのではない、うっかりつまずくのだ。そうすればアダムのカプセルは動きを止める。もしも二つのカプセルが連動しているようなことがあれば、イブだけを助ければいい。
 シュウは熱に浮かされたようにフラフラと資料室を出た。
 この宇宙船を地球に着陸させたら、一番に彼女と地上に降り立とう。そして彼女と切れない絆を作るのだ。他の100人が起きても、その誰もが彼女を手に入れようなどと考えないように誰よりも早く、早くだ。
 シュウは人間として大切なところだけが見えなくなっているかのように、ただ自分の夢のみをブツブツと自分に言い聞かせながら歩みを進めた。

 冷凍睡眠室の空気は、前よりも幾分冷たく感じた。室温は変わっていない。シュウの体温が変わったのかもしれなかった。
 シュウは二列に並んだカプセルの間を奥にあるコードに向けて進んだ。シュウの頭で、鼓動が痛いくらいにガンガンと音を立てている。
 つまずくんだ。つまずくだけだ。悪いのは俺じゃない。そこにコードがあったからだ。むしろ転んで被害を被るのは俺の方だ。

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