この地球の美しさといったら! 08
「すぐに任務に向かいます」
「任務?」
「土壌の採取と分析です」
そう言うと彼女は歩き出そうとする。一人で行かれてしまっては予定が狂う。
「手伝うよ」
「そのような命令をお受けでしたらお願いします」
彼女はまた一礼すると、着替えることもせずに外へと続くハッチのある小部屋へ向かって歩き出す。シュウは慌てて彼女の後に続いた。
昇降機が地上に近づき、シュウと彼女は地表に降り立った。振り返ると宇宙船は上手く砂地に着陸している。これなら何か起こった時も再び宇宙へ逃げ出せるだろう。早々にしゃがみ込んだ彼女を尻目に、シュウはあちこちに触り、匂いを嗅いだ。
何もかもが新鮮だった。砂はサラサラと暖かく、海の水はぬるぬると指にまとわりつく。手を拭きながら森に近づくと、足元は砂から黒っぽい土へと変化してきた。
海の匂い、砂の匂い、土の匂い、幹の匂い、葉の匂い。鼻を近づけるとそれぞれに主張してくるその匂いは、絶妙なブレンドでシュウの肺に侵入し、100年の間使い古した空気を隙間まで洗い流していく。
ふと白い花が目に付いた。5枚の花弁を持つ繊細な出立ちは、彼女の髪にこそふさわしい。シュウはおそるおそる手を伸ばして花を手折り、彼女を振り返った。
森にほど近い場所の土を左手のひらに乗せたまま、彼女は突っ立っていた。シュウが近づいても微塵も動かない。その土を持ち帰って分析するなら、何か入れ物に入れなくてはならないだろうが、何一つ道具を持っている様子が無い。不思議に思いつつも、シュウは彼女の髪に花を飾ろうとした。だが彼女は、それを奪うように手に取り、花に視線を落とす。シュウも釣られるようにその花に見入った。
「質量3.249g、27株のカビが認められます」
「何を言って」
なんの冗談だと笑おうとして、彼女の目に釘付けになった。眼球からレンズが伸びているのだ。シュウは開いた口がふさがらず、だが呼吸器が凍ってでもいるように息苦しさを感じた。彼女はそのレンズをシュウに向けるとレンズの出し入れをして、シュウのあちこちにピントを合わせている。
「あ、アンドロイド……?」
「はい。土壌の採取と分析をプログラムされております」