砂と水 3


 それから、お互いが自分の国を語った。
 シェティアは、俺の話を何から何まで珍しそうに、目を丸くして聞いた。電話もテレビも電車も知らないのだ。話に聞いたことさえ無いようだった。
 そしてやはりシェティアの生活は、思った通り地味なものだった。ドラゴンがそこにいるせいか、子供の頃に本で読んだファンタジーな世界が思い浮かんだ。ここで目を閉じたら、そのままそこへ行けそうな気がした。死を超えた世界がどんな所かは知らないが、そういう場所ならいいと思った。
 シェティアは自分の身体を抱くように、両肘を抱えた。元からあまりよくなかった顔色が、さらに悪く見える。
「明け方になると、寒くて……」
 俺が心配そうにしていることに気付いたのか、シェティアは苦笑を浮かべながらつぶやくように言った。俺は立ち上がり、シェティアの所まで歩いていって、持っていたバスタオルを背中からシェティアにかけた。ほんの少し触れたその肌は、地熱を放出しきった砂のように冷たかった。驚いて引っ込めた手をごまかすように、俺は白んできた東の空に目を向けた。
 日が昇ってしまうのだ。最後に見る日の出かもしれない。でも、シェティアには少しでも暖かな方がいい。そう思えるのが少しだけ救いになった。
「すぐに暑くなる。?」
 シェティアに視線を戻そうとした。だが、そこにはもう誰もいなかった。肩にかけた白いタオルだけが砂の上に落ちている。いつの間にかドラゴンも消えている。
 幻覚がおさまったのだ。孤独感がわき上がってくる。いや、最初から孤独には変わりない。だが俺は、今までオアシスにいたような気さえしていた。
 落ちているタオルを手に取り、ふと、その下にあった石のようなモノに気付く。半分埋まったそれは、砂より白っぽくて半球のような形をしていた。触れた部分が砂に同化するようにカサッと落ちる。指先に伝わったシェティアと同じ温度に、心臓がゴトッと音を立てた。その穴から見えた物は、たぶん裏側から見た眼窩だ。これは石などではなく頭蓋骨だったのだ。
 そうか。シェティアはここで果てたのだ。俺が今過ごしたのは、幻覚ではなくて人間だったのかもしれない。といっても、もう身体のない魂だけだったかもしれないが。
 俺は穴を掘ってその骨を埋め、砂をかけた。崩れる砂に少しイライラしたが、なるべく高く山を作った。上に置いてやる石もない。墓にはとても見えなかったが、俺にできるのはここまでだった。

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