満月の牙 5


   ***

 村外れにポツンと立つ小屋は窓に明かりもなく、何事も起こっていないかのようにひっそりとしている。見張りがいるかもしれないと思ったが、アルフレートは気にせずに近づき、扉に手をかけた。
 音を立てて開きかけた扉が、わずかに動いただけで止まる。小さな金属音がしたのは、簡単な金具を鍵の代わりにしているからなのだろう。
 アルフレートは一歩だけ離れると、その扉に向けて蹴りを放った。盛大な音がして扉が開き、反対側の壁にぶつかってもう一度音を立てる。二つの蝶つがいは、かろうじて壁と扉を繋いでいた。
 小屋の中はがらんとしていて、人の姿は見えない。でも今の音で間違いなくアルフレートの存在は知れたはずだ。ここにも探しに来たのだと、地下で息を潜めているのだろう。
 だが、金具を小屋の内側から止めてあったのは、中に人がいるからだ。そこに気付かない犯人の間抜けさを笑うと、アルフレートは部屋を見回した。窓から入ってくる月明かりのせいで、床にある地下への入り口が嫌でも目に付く。
 アルフレートは小屋の扉を閉じた。音を立てないように月光が差し込む窓の隣、一番暗く見える部分に立つ。
 少しして、地下への入り口が細く開いた。中から光が漏れてくる。そこから一人顔を出して周りを見回すと、目をこらしてアルフレートの方向を凝視した。当然のように目が合う。
「誰だ?!」
 その男は慌てて出てきた。手にしたナイフを振り回しながら駆け寄ってくる。ナイフを持った手を左腕で払い、右の拳をみぞおちにたたき込む。ぐぁ、と絞り出すような声を上げて、男は床に伸びた。
 開いたままの入り口から、もう一人が姿を見せ、アルフレートに拳銃を向けて引き金を引いた。パンと乾いた音の後、身体に衝撃が走る。アルフレートは壁に背を預けたまま、ズルズルと座り込んだ。左の肩口に焼けるような痛みがある。
 地下から女の悲鳴が響いた。村長の娘と思われる、誰を撃ったのかと騒ぐ声と、引き金を引いた奴だろう、当たったと喜ぶ声が聞こえてきた。

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