満月の牙 6


 壁に寄りかかって身体の力を抜く。撃たれたのは肩で心臓ではない。死ねなかったことに安堵する気持ちを意外に思った。
 大きく息を繰り返すうちに、傷は耐えられる痛みに変化してきた。それでも弾のある場所が熱いのは、銀の弾丸だからか。
「少し静かにしてろ!」
 中から人が出てきた。いや、気位の高そうな口をきくからには、その男が吸血鬼だろう。
 アルフレートはじっと動かないまま、胸の十字架に視線を感じていた。吸血鬼がフッと鼻で笑う。
「やはりこいつか。餌が無くなれば、ルーナも戻るかもしれんな。それが嫌なら、村人を襲うか」
「有り得ない」
 アルフレートの声に、吸血鬼は身体を硬直させた。
「ルーナが村人を襲うなど」
 そう言いながらアルフレートは、ルーナがこの吸血鬼の元に戻ることもないと思いたい自分に気付く。
「しくじったのか!」
 吸血鬼が腰の剣を抜く間に、アルフレートは杭を手に立ち上がった。残る1人が慌てて出てくる。その手には今しがたアルフレートを撃った銃が見えた。
 薙いでくる剣を下がって避ける。唯一吸血鬼に勝てる武器を失うわけにはいかないので、杭で剣を受けられない。
 振り下ろされる切っ先を見ながら飛びすさり、何か手はないかと視線を走らせる。その視界に銃を構えた男が入ってきた。床を思い切り横に蹴る。引き金が引かれた直後、アルフレートの首を擦過した弾丸が、背後の窓ガラスに飛び込んだ。
「心臓だ、馬鹿!」
 吸血鬼は男にそう叫びながら再び剣を薙いでくる。アルフレートは一瞬早く扉を開け、その陰にかがみ込んだ。扉が真ん中辺りで砕け、上半分が剣の力に持って行かれる。
 身を隠した扉の残り半分を壁から引きはがし、アルフレートは吸血鬼に向けて振り回した。思わぬ反撃に体勢を崩し、壁にぶつかった吸血鬼の心臓をめがけ、握りしめた杭を突き出す。
 吸血鬼を貫いた杭が壁に食い込む音のあと、アルフレートの脇腹にナイフが深々と突き刺さった。銃を捨てた男がいつの間にか、気を失っている男のナイフを手にしていたのだ。

7へ


前へ 短編掌編 TOP