満月の牙 8


   ***

 気を失っている娘を教会に運んだ。
 アルフレートはこびりついた血の匂いもすべて洗い流し、すっかり神父の格好に戻った。講堂に入ったドアの音で、娘が気を取り戻す。アルフレートは、今初めて娘を見つけたような顔をして、上体をゆっくり起こした娘の側に立った。
「あなたは村長の。どうしてここに? 大丈夫ですか?」
 娘はうなずくと慌てて立ち上がり、嬉しそうにアルフレートを見上げた。
「神父様、生きていらっしゃったんですね。よかった」
「なんのことです?」
 アルフレートは訳が分からないといったように取り繕いながら、もしも娘がしっかり覚えていたら、どうしようもないのだと覚悟を決める。
「だって、撃たれたり刺されたりで、血だらけだったから……」
「私がですか?」
 娘は不思議そうにうなずいてから、アルフレートの首をのぞき込む。
「確かここにもひどい傷が……、無いわ?」
 狼人は生命力も治癒能力も非常に高い。傷があったところが疼きはしても、まわりと見分けが付かないほどには治癒しているのだろう。
「あなたは今、私が留守の間にここに運ばれていたのですよ? きっと夢を見たのでしょう」
「そうかもしれません」
 娘がそう思い込んでくれそうで、アルフレートは安堵した。娘は記憶をたどるように目を細め、首をかしげる。
「でしたら、どなたが助けてくださったのでしょう。神父様にとても似ていらしたのは……、神様なのかしら」
 村長の娘は期待をいっぱいにした目で、アルフレートを見つめた。アルフレートは苦笑を返す。

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