至高の空 3


   ***

 その日、夜になってから、コーチと一緒にラインの確認をした。そこまではよかったが、問題のジャンプの場所は、少しも変更されなかった。俺がスランプだと分かっていて、しかもこのコースが非常に難しいことも知っているくせに、コーチはひどくのんびりしている。俺がラインを頭にたたき込んでいる最中に、一人でウォッカを飲んでいるのだ。まぁ、滑るのは俺なのだから、別にコーチが何をしていようとかまわないのだが。
「失敗したのがネットの場所でよかったネ」
 頭の中のゴールまで到達したとたん、コーチが口を開いた。
「いや、よかったって、ちょっと……」
 そりゃあ、もし転倒した先がフェンスや雪の壁だと、レースどころじゃないダメージが残る可能性が高くなるし、命だって危ない。セーフティネットなら防護壁の中でも一番安全なことは間違いない。だが、転倒した先がセーフティネットでも、ただでは済まないのだ。
 相変わらず身体の芯に恐怖が残っている。このまま出場しても、ろくな順位は取れないだろう。ポイントにだって届かない。征弥は駄目だと言われるくらいなら、いっそのこと滑らない方がよくないか? いや、でも滑らなければ、引退か、と言い換えられるだけかもしれない。
「ユキヤ、早くスタート位置について」
 余計なことを考えているのが、コーチにばれていたらしい。目をつぶって大きく深呼吸をし、迷いを吐き出したつもりになって、俺はもう一度最初から頭の中でラインをたどり始めた。
 身体との距離を確認しながら、いくつもの赤い旗門を通り過ぎる。椅子に座っているだけで、実際滑っているわけではない。だが、そのジャンプが近づくにつれて焦りが出てきた。意識しないまま、腕にも足にも勝手に力がこもる。
「ユキヤが考えるほど、状態は悪くない」
 コーチの声に驚き、その意味に呆気にとられた。
「技術もスピードも上がってきてる。良くないのはここだけ」
 そう言うと、自分の胸の真ん中を親指で指し示す。そんなことを言われたら、本当に胸が痛くなる。恐怖心やプライドや利害などという、余計な物が多すぎるのは分かっている。
「空を見ておいで」
「は?」

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