脇道のない迷路 2-2


「何をしている。明かりもつけずに」
 振り返ると父がいた。玄関の方でもまだガタゴトと音がする。
「別に、何も」
 シェダ様が入ってきた。こんな遅くに? 俺は立ち上がって出迎えた。父が灯していく明かりで、シェダ様の顔色がよくないことに気付く。
「君に直接聞きたいことがあってね。お邪魔させてもらったよ」
 そう言うとシェダ様は、俺にシャツを差し出した。目を疑った。これは、あの子に貸したシャツだ。俺がシャツを受け取ると、シェダ様は口を開く。
「君がうちに連れてきたのは、リディア、私の娘だよ」
 あの子がシェダ様の? そうか。だからあんなに大きな家で、俺の母を知っていて。リディアという子の泣き顔が思い出され、胸が痛くなる。顔をしかめた俺をシェダ様はいぶかしげに見た。
「リディアに何があったのか、教えてくれないか?」
「何がって……、話していないんですか?」
 リディアは、たぶんまだ十一、二歳だろう。でも、悪い人がいたと親に言いつけることができないほどショックだったのかもしれない。
「君が送ってくれたあと、部屋に閉じこもってしまってね」
 シェダ様は大きく息を吐いて眉を寄せた。心配なんだろう。それは分かる。でも。
「そういうことでしたら、話せません」
 俺はシェダ様に面と向かって言った。俺の対応を予想していたのか、父のため息が背中から聞こえる。シェダ様は俺に一歩近づいた。
「なぜだ?」
「リディアさんが話したくないのなら、俺が話す訳にはいきません」
「リディアはまだ子供だ。私はリディアの親だよ? 知る権利はあるだろう」
 だんだんとシェダ様の顔がきびしくなってくる。それと同じだけ、俺も意固地にならざるを得なくなる。
「でも、話せません」
「原因が君だから、話したくないととられても仕方のないことなんだよ?」
「どう取っていただいてもかまいません」
 あんな奴らと一緒にされたくないと思ったが、俺は変わらずに返事をした。だが、これには父が表情を引きつらせた。俺の襟元をグッと掴み、顔をつきあわせる。
「話しなさい」
「イヤです」
「話せ」
「イヤだ」
「お前が疑われるんだぞ」
「好きに疑えばいい」
 眉根を寄せて、父は俺を突き飛ばした。後ろの棚に背中をぶつけ、置いてあるモノがガタガタと揺れる。
「もう数日で騎士だというのに。少しは誇りを持ったらどうだ」
 誇りだって? そんなモノがあるから、あいつらはあんな愚行をするんだ。
「うぬぼれた騎士になんか、なれなくてかまわない! どうせ人を斬るのはイヤだったんだ!」
「何を考えている! 人を斬らずに戦などできん。敵は斬ればいいんだ。お前は余計なことを考えるな!」
 敵は斬ればいい? 余計なことだって? 父も結局はカイラムと同じなのか? もうイヤだ、顔も見たくない。そう思った時には、俺は家を飛び出していた。番がある。その次の日には出陣式があり、城都を発って前線に行かなければならない。俺にはもう、迷っている暇などないのに。

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