脇道のない迷路 4-1


 明るい朝日を遮って影が通ったせいで、俺は眠りから覚めた。細く目を開け、すぐ側にある顔に驚いて跳ね起きた。途端、腹部の痛みが身体を襲う。
「うわっ、いてて……」
 この部屋の主、ウェルさんという人は、肩をすくめてため息をつき、俺の背中を支えてベッドに横にした。
「信用ないなぁ。昨日の今日じゃ、仕方がないのかもしれないけど」
 ベッドの横に立って俺の様子を見ていてくれたのだろうか。苦笑して頭を掻いたウェルさんに、俺は寝たまま頭を下げた。
「ごめんなさい、ウェルさん。ウェルさんって呼んでもよかったのかな」
 ウェルさんの顔が笑顔に変わり、俺の頭をクシャッと撫でる。
「そう、ウェルでいい。ま、弾みで起きられるくらいなら、昨日よりはだいぶいいな。そのぶんだと午後には普通に起きていられるだろうよ。あれ? 綺麗な色だな。紺?」
 そう言うと、ウェルさんは俺の目に顔を近づけてくる。いつものことだが、これだけは慣れることができない。見ている方は単純に目を見ているだけなんだろうが、見られている俺の方はじっと見つめられているのと同じなのだ。俺は腕を突っ張ってウェルさんを遠ざけ、そっぽを向いた。
「あぁ、ゴメンゴメン。昨日は、黒かったよな?」
「ちょっと暗いと、黒に見えるんだ」
「あれ? じゃあ、バックスが言っていた騎士になるフォースってのはお前さんか?」
 いぶかしげなウェルさんに、俺はムッとして見せる。
「俺、明日で十四。十九に見える?」
「全然」
 ウェルさんは、俺がまっすぐ見据えた目にそのまま視線を返し、平たい笑みを浮かべた。
「でも、剣技をやってる身体だ」
「ええっ?」
 俺があんまり驚いたからだろう、ウェルさんは可笑しそうに含み笑いをする。
「肉付きがそうだった。腕なんか特にな。バックスより強いかもしれん」
 そういえば昨日、筋肉が好きだとか言っていた。バレただろうか。でも、歳はまだ勘違いしたままだ。それに、いつ見たんだ?
「み、見たの?」
「声をかけても起きやしない。もし内蔵をやられてたら困ると思ってな。じっくりと見せてもらったぜ。服を脱がせれば起きるかと思ったが、それどころじゃなく着せても起きなかったから隣で寝たぞ」
「隣……」
「眠っている顔は十四どころじゃないな。まるで赤ん坊だ。しかも一緒に寝てたら犬コロと一緒だ。体温は高いわ、ブチはあるわ」
 そう言うとウェルさんはワハハと声に出して笑う。子供扱いどころの話じゃない。犬コロときた。でもそのおかげで、俺はすごく気が楽になった。

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