脇道のない迷路 5-1


 ウェルさんの仕事場で食事をご馳走になり、俺はそのままそこにいた。オレンジ色の暖かい光の中で、ボーっと鎧が形になっていくのをながめる。人の命を守る立派な仕事だと思う。
 じゃあ剣は? 剣を作ると罪だろうか。母の命を奪った剣を作った人に罪はあるだろうか。嫌でもその時の情景が胸に蘇ってくる。
(お前たちのせいだ! お前たちがいるからこんなことになったんだ!)
 剣を振り上げたカイラムの顔は、家族を失った悲しさと怒りに溢れていた。
 俺はそれから三日間、ずっと抜け殻のようだった。母を殺したカイラムの名を誰に告げることもなく、その時の状況を話すでもなく、ただボーっとして母が残した言葉を呪文のように何度も唱えていた。
(強くなりなさい。誰も恨んではいけない)
(強くなりなさい。誰も恨んではいけない)
 そして四日目のことだ。カイリーがカイラムと一緒にうちに来た。毒で母親を亡くしたカイリーは、単純に俺と悲しみを分かち合いたかったのだろう。
(同じだね)
(悲しいけど頑張ろうね)
 カイリーの言葉に、俺は何も考えないようにして、そうだねとだけ繰り返した。それでも答えるたび、言葉と共に気持ちがちぎれて吐き出されていくのが分かった。カイラムはそんな俺の様子を、ただジッと見ていた。
 その日の夜、俺は初めて泣いた。父は何も聞かずに側にいてくれた。それでもことの次第を話せなかったのは、お前たちのせいだと叫んだカイラムの声が、耳から離れなかったからだ。もしかしたら本当にそうなのかもしれないそれは、俺のどこを切り落としても外れそうにないカセになっていた。誰もいないところに住みたいと父に頼んだのも、その言葉からだった。
 引っ越した先は、ヴァレスだった。国境付近では一番でかい町だ。最初はだまされたと思ったが、次第にコトは飲み込めた。人はただ居るだけで、俺を見向きもしない。目が紺色をしていることにも気付かない。一人じゃない一人がとても嬉しかった。
(強くなりなさい。誰も恨んではいけない)
 その言葉はその町の中で形をなした。俺は剣をとった。母の命を守れるだけの強さが欲しかった。カイラムが剣を手にしなくて済むように、その生活を守る力が欲しかった。五歳だった俺は、ほかに何一つ力を得る術を知らなかった。
 それから俺は、前線と町を行き来する騎士や兵士に剣を習った。いや、そのうちの半分は、習ったと言うよりもケンカをふっかけていたと言った方が当たっているかもしれない。それからは、強くなることが俺のすべてだった。
 父が首位になり、俺が陛下の目にとまり、サーディの学友となり、騎士であるためのすべてを叩き込まれ。

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