脇道のない迷路 7-2


 もう一人が剣を抜いて胸の前に立てるのを見て、俺もそれにならった。そしてお互いに剣身をまっすぐ前に差し出す。本当ならこの形で剣を一度合わせ、試合開始の合図にする。だがそいつは合わせるはずの剣に力を込め、払うように斬りつけてきた。後ろに下がってそれをかわし、真上から打ち込まれた剣を一歩踏み込んで剣で受けた。一瞬動きが止まったのを見て、横にいた奴が隠し持っていた短剣を投げつけてくる。俺は剣を流し、腕をひいて剣を合わせている奴の背中のプレートでそれを受けた。悲鳴を上げた男の首筋に、剣の柄を叩き込んで意識を奪う。
「どこ狙ってるんだ」
 俺は倒れた奴の上をまたいで短剣を投げた奴をにらみつけながら足を向けた。途中、剣を鞘に収める。一対一なら剣がなくても、絶対にのしてやると思った。剣を手にしていない俺に怯えるように、丸腰になったそいつは後退って壁を背にする。そいつの視線がふと横にそれた。そっちをうかがうと父がいる。
「子供のケンカに口を出すなよ」
 そう言った俺に、父はフッと含み笑いをした。
「すまないが、先日捕まえた奴が仲間の名を吐いたんだ。ずいぶんと余罪があるようでな。もう仕事の範囲なんだよ」
 それなら後は任せればいい。ケガでもさせて、こっちが処分の対象になってもバカバカしい。不満が残る俺は目の前の罪人に、わざと残念そうに土を蹴って見せた。
 バラバラと寄ってきた騎士たちが二人の罪人を連行していく。彼らが見えなくなる前に、父は俺に向き直った。
「どこへ行っていた、この放蕩息子」
 一晩の行方不明で、もうこの言いざまだ。俺はふてくされて父の顔を見上げた。
「昨日の午後にはちゃんと帰ってたよ。おとついの夜にさっきの奴ら三人と、鎧職人のワーズウェルさんとそこにいるバックスさんにお世話になってたんだ」
「フォース! 一緒くたにするな!」
 バックスが血の気がひくほど驚いて駆け寄ってくる。父を前にすると、バックスに冗談は通じなくなるらしい。
「奴らに襲われたのを助けてくれて、介抱してもらったんだ」
 父は、言い換えた言葉に安心したようにそうかと答え、俺の頭にげんこつを落とした。大げさに頭を抱えてかがみ込んだ俺を放っておいて、父はバックスに頭を下げる。
「バックス君といったな。ありがとう、感謝する。ここのところ、これに元気がなくて心配していたが、必要以上に元気になったようだ」
「はぁ、スミマセン」
 なんで謝るんだ。バックスの言葉に吹き出した俺に、父が二度目のげんこつを落とした。
「バカ者。恩人にたいして失礼だぞ。それに騎士にとって最初の打ち合わせをいきなり無断欠席など、お前が初めてだ。クエイド殿がずいぶん心配して下さっていたんだぞ。きちんと謝罪してこい。せっかくお前を買って下さっているというのに」
 俺は分かりましたと真面目な顔で立ち上がり、二人にきちっとした敬礼をした。
「そうだ。お前、家の中を片づけておいてくれ」
 人が真剣に敬礼してるってのに、いきなりなんなんだ。バックスにも意外だったのだろう、固まっている。
「またかよ。仕事仕事言ってないで、嫁さんでも探してくれればいいのに」
「余計なお世話だ。私はエレンを愛している」
 余計じゃないだろと、俺は肩をすくめた。背中を見せようとして父の視線を感じ、俺はまだ何か用かと目を合わせた。
「お前、ずいぶんエレンに似てきたな」
 一気に身体の力が抜けた。
「それ、頼むからエレンを愛してるってのと並べて言うなよ」

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